締切後の無気力を「ストレス反応」から考える
締切後に何もしたくなくなる状態を、NIOSHの職業性ストレスモデルをもとに、原因・反応・長期的な影響に分けて整理します。
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納品が終わって、ようやくまとまって眠れた。 それなのに、起きた後も体が動かない。
部屋を片づけようと思っても手がつかず、返信も後回しにしてしまう。 けれど、数日すると自然に戻っている。
そんな状態を経験したことがある人もいるのではないでしょうか。 「あれは、気が抜けただけ」「締切が終わって疲れが出ただけ」と考えることもあると思います。
ただ、あの状態は、締切までに蓄積した疲労や睡眠不足、強い負荷によるストレス反応が重なって生じている可能性があります。 単なる気分の問題として片づけず、負荷を受けた後の反応として捉えることもできます。
「ストレス」という言葉を、原因・反応・結果に分けて考える
日常で使う「ストレス」という言葉には、実は性質の異なるものが含まれています。
- ストレッサー(原因): 締切、リテイク、長い拘束時間、指示の出方、人間関係
- ストレス反応: それらを受けて、心や体、行動に起きる変化
- 健康や仕事への長期的な影響: ストレス反応が長く続いたときに生じる健康問題や仕事上の問題
職業性ストレスを考えるときは、原因、反応、その先の結果を分けて捉えることが重要です。 理由は、それぞれ手を打つ場所が違うからです。
心や体に現れた反応への対処も必要です。 しかし、それだけでは、雨漏りの原因を直さずに床を拭き続ける状態になりかねません。
米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)が示した職業性ストレスモデルでは、職場のストレッサーによって心理的・身体的・行動的なストレス反応が生じ、それが長く続くことで、健康問題や仕事上の問題につながる流れが整理されています。 深刻な不調だけを見るのではなく、その手前に現れる心や体、行動の変化にも目を向ける必要があります。
反応には、心理・身体・行動の3種類がある
ストレス反応は、大きく次の3つの形で現れます。
- 心理面: 不安、いらだち、意欲が出ない、好きなことを楽しめない
- 身体面: 寝つけない、途中で目が覚める、頭痛、胃の不調、疲れが抜けない
- 行動面: 飲酒量が増える、人と会うのを避ける、物事に手がつかない
冒頭の「何もする気が起きない」という状態は、心理面や行動面に現れた反応として捉えることができます。 一つひとつを切り離して見ると、「やる気がない」「だらしない」といった性格の問題に見えるかもしれません。
しかし、締切前の睡眠不足や長時間作業、緊張が解けた後の疲労感などと一緒に並べてみると、一連のストレス反応として見えてきます。 ここで大切なのは、一時的なストレス反応が出ること自体は、必ずしも異常ではないということです。
強い負荷がかかれば、誰にでも心身の変化は起こり得ます。 見るべきなのは、その反応がどの程度続いているかです。
数日休むことで自然に戻るのか。 数週間たっても意欲が戻らず、眠れない状態や仕事に手がつかない状態が続いているのか。
後者であれば、「気合いで乗り越える」「根性が足りない」と考えるのではなく、周囲や専門家への相談を検討すべき段階です。
同じ職場にいても、こたえる人とこたえない人がいる
同じ締切や作業量でも、強く疲弊する人もいれば、比較的早く回復する人もいます。 この違いを、「あの人はメンタルが強いから」で説明したくなることがあります。
しかし、NIOSHのモデルでは、ストレッサーと反応の関係には、さまざまな条件が影響すると考えます。 年齢や経験、健康状態といった個人要因。 家庭の事情や生活環境などの仕事外の要因。 そして、上司や同僚、家族からの支援などの緩衝要因です。
例えば、同じリテイクが発生しても、早い段階で相談できる相手がいる人と、納品直前まで一人で抱え込む人とでは、受ける負荷は同じではありません。 在宅で誰とも話さずに作業する環境と、隣の席に相談できる人がいる環境も、同じ条件とはいえません。
ストレス反応の違いは、本人の強さだけで決まるものではありません。 その人が、どのような仕事の進め方を求められ、どのような環境に置かれ、困ったときに誰を頼れるのかによっても変わります。
だからこそ、何もできなくなった人に対して、すぐに「メンタルが弱い」と結論づけるのは適切ではありません。 そして裏を返せば、仕事の進め方や相談体制など、周囲の条件には変えられる余地があるということでもあります。
まとめ
締切後に何もしたくなくなる状態は、単に「気が抜けた」と片づけるのではなく、強い負荷を受けた後の疲労やストレス反応として捉えることもできます。 ストレス反応の出方は、本人の「弱さ」だけで決まるものではありません。
仕事の量や進め方、睡眠や生活の状況、相談できる相手の有無など、本人を取り巻く条件にも左右されます。 自分を責める前に、まずは「最近、どのような負荷がかかっていたか」「どのくらい反応が続いているか」を振り返ることが大切です。
出典
- Hurrell JJ Jr, McLaney MA. Exposure to job stress—A new psychometric instrument. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 1988;14(Suppl 1):27–28.
- 厚生労働省「こころの耳」職業性ストレスモデル
- 労働政策研究・研修機構『労働政策研究報告書 No.147』第3章「仕事や職場の状況とストレス反応」